October 25, 2006

タイマン

北海道以外に存在するかどうかは知らないが、北海道にはツーリングで訪れるライダーのためのライダーハウスという宿泊施設がある。
宿泊施設といっても形状は普通の家を提供していたり、プレハブだったり、雑居ビルのテナントを無料開放していたりと様々である。
基本的に寝床を与えてくれる施設で、一応ライダーハウスと名付けられてはいるが、ライダーでなくとも宿泊できるところも存在する。

北海道旅行での3泊目は某ライダーハウスに電話で予約を入れていて、¥500で泊まらせてもらえるとのこと。
この値段は相場としては普通だが、到着して施設を眺めると格安と判断できた。
太平洋に面したこのライダーハウスはログハウスの佇まいで洒落ていたのだ。
ところが話を聞くと、実はログハウスに泊まらせてもらえるわけではなく、隣にこじんまりと建てられているプレハブに宿泊するようなのだ。
ガックリである。

さらにミスったのは、今回の旅行では寝袋を家に忘れてきていたことである。
50代のダンディなマスターにその旨を告げると、
「寝袋がないならプレハブは寒いよ。じゃあ、こっち(ログハウス)で寝なよ。布団もあるし。但し、¥3,000になるよ。」

一瞬ではあるが、ボクの表情は険しくなっていたはずだ。
しかし、これから泊まる施設を探している暇などないし、車で牧場巡りを行っているため腰に疲労が蓄積しているため早いとこ休みたいのだ。
ましてや日没が早い北海道は17:00で既に辺りは真っ暗。
ボクは渋々¥3,000支払うこととなった。

するとマスターが、
「ゴメン。お金持ってくるの忘れた。丁度¥3,000ある?」
と尋ねてきた。
ところが間の悪いことに細かいお金は¥2,300しか持ち合わせていない。
「じゃあ、¥2,300に負けるよ。」
なかなか話の分かるマスターである。
「今年最後のお客さんだろうから、今日はサービスとしてデラックスコースだ。」

デラックスコース??

「ライヴを披露するよ。」

ログハウスの1階にはドラムセットやギター、キーボードなどのバンドセットが所狭しと立ち並んでいた。
「荷物を2階に置いてきなよ。」
マスターに促されてボクは嫌な予感が脳裏に過ぎりながら1階に戻ってきた。

マスターはエレキギターを片手にチューニングの真っ最中。
え?もうやるんかいな!
「リクエスト受け付けるよ。」
壁には手書きのレパートリーがざっと見回したところ100曲ばかりが紙で貼り付けてある。
当然の如く、ボクの世代とは甚だ掛け離れていたが、何とか自分でも聞いたことのある曲はないかと目を皿のようにして探していると、
「じゃあ、手始めに…」
勝手に演奏を始めた。
ドラムの音やベースの音は予め打ち込んである手の込みようだ。

滑稽である。
御機嫌でボクの全く知らない外国人の曲を弾き語るマスター。
気を遣って手拍子をするたった一人のお客のボク。
嫌な予感は見事に的中した。

マスターはほぼノンストップで5曲ほどを上手いとも下手とも判断しかねるレベルで奏でた。
手拍子しているボクを見てマスターは嬉しそうに告げた。

「ノリいいねえ。」
気を遣ってるだけだ!

ギターを置いたマスター。
ふ〜。
やっと終わったか…。

「じゃあ、次はキーボードでいきます。」

拷問だ。
マスターとボクとの1on1は続く。
これまた全く存じ上げない外国人の曲を5曲弾き終えたところで、

「そうだ。晩飯はどうするの?風呂は近くに温泉があるよ。車で2分だし、行っといで。」

小躍りしたかった。
漸く開放される。
苦節1時間。
よくぞ耐えた、よしゆきロビンソン!

大急ぎで風呂の用意をし、エンジンを思いっ切り吹かして温泉へと向かった。
いっそこのままトンズラぶっこいてやろうかとも頭に浮かんだほどである。
せめて温泉で体ぐらい癒そう。
なのに悲劇が…。こちら→ドラゴン
全然体が温まらなかったが、コンビニで晩飯を調達し、ライダーハウスへと戻った。

「おっ!帰ってきたか。長いこと入ってたんだね。じゃあ、続きいくよ!」

後頭部に鈍器でどつかれたような痛みが走った。
追加で¥2,000払うから寝かせてくれよ!
コンビニで調達していた500mlの缶ビール3本を一気に飲み干した。
その姿を見てマスターが

「いい飲みっぷりだねえ。」
飲まなきゃ、やってられねえんだよ!

半ばヤケクソでライブに入り込んだ。
敢えて手拍子はさらに大きく、体の揺れもさらに大きくした。
マスターはボクがレパートリーの中からリクエストした長渕剛の「とんぼ」や、浜田省吾の「路地裏の少年」、甲斐バンドの「安奈」など10曲をギター片手に熱唱。
そのどれもが独自のアレンジが加えられていた。

マスターが最後に奏でたのは松山千春の「長い夜」
それはこっちのセリフだよ!

結局デラックスコースでも何でもなく、単にマスターによるマスターベーションじゃないか!


しかし、数年後、再びここを訪れている自分の姿を容易く想像できるのはなぜなんだろう?

Posted by foe1975818 at 21:00│Comments(10)TrackBack(0) 最近 

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この記事へのコメント
マスターの拷問は
やっぱりどこも迷惑だって気づかないところが
似てる〜。
ペンションとかで弾きだすと
泣きたくなる〜
Posted by すい at October 25, 2006 23:46
すいさん
お客を楽しませようとする気持ちはありがたいんやけど、ありがた迷惑という言葉も日本にはございますからね。
他にも犠牲者がいるならよういが、サシはもう懲り懲りだ。
Posted by よしゆきロビンソン at October 26, 2006 02:35
朝っぱらから笑わせて頂きましたww


寝袋があればライダーハウス安いんすね。勉強になったっす
Posted by ある契約社員 at October 26, 2006 06:08
凄い拷問を受けましたね。
いくら安くても、客が喜ばないサービスは、
ちょっとだけ控えていただきたいですね。
Posted by チカ at October 26, 2006 12:31
2,500円多く払ってその仕打ちとは泣きたくなりますね。
しかも男二人かい!!

私だったらあっさり寝ます〜っと言いたいところですが
なんだかんだと付き合ってしまうよしゆきロビンソンさんは
案外いい人ですねw ←失礼ノ(´д`*)
Posted by panda at October 26, 2006 14:30
ある契約社員さん
1対1を客観的に見ると笑えますが、オレはなぜか必死でした。
安いですが、設備はピンからキリまでありますよ。
ここはあれさえなければ上等な設備でした。



チカさん
実は拷問ばかりではなかったんですよ。
この後、続きがあったりします。



pandaさん
歌手が「デビュー当時はお客さんが1人なんてこともありましたよ〜。」と呑気に告白してますが、お客の身になって初めてわかりました。
辛すぎました。
でも、憎めない感じでしたし素性が掴めなかったので、後で探ってやろうと画策してたんですよ。
いい人ではなく、そのような裏がございました。
Posted by よしゆきロビンソン at October 26, 2006 15:35
こにちゎぁ〜♪♪♪
にゃはははっww よっすぃ〜様にゎ悪ぃけど思ぃっきり笑っちゃぃまスタww
ライダーハウス、あなどれませんねっ・・・(-_☆)キラーン♪
Posted by みぅ☆ at October 26, 2006 17:07
みぅさん
ライダーハウスが全部こうではありませんよ。
ここだけが特殊な楽しさを提供してくれるわけです。
Posted by よしゆきロビンソン at October 26, 2006 19:43
50代のマスターとの1on1は、傍から見てる分には面白そうですが、当事者となると辛いものがありますね。
お金貰った上に歌まで聴いてもらえるんですから、マスターにとってはデラックスコースですね。
Posted by クロフネ at October 29, 2006 01:40
クロフネさん
辛かったんですが、悪い人ではないので無愛想に接することはできなかったですね。
お客には大概デラックスコースを披露してるみたいなんですわ。
Posted by よしゆきロビンソン at October 29, 2006 09:43