パトカーを発見した瞬間、ボクの背筋は単位で表せない速度で氷結。
きっと何かの間違いだ。
現場に辿り着く前にパトカーは走り去った。
状況を把握できないボクは、現場付近のバイクショップに躊躇することなく駆け込み、今のパトカーの来訪理由を尋ねた。
「午前中にそこで結構大きな事故があったんで、その実況検分で来てたみたいですよ。」
ヨネスケばりの急なボクの訪問を動揺することなく、稼働していたエンジンを態々止めて耳を傾けて解答してくれた。
そうか、違ったか。
どこだ。
一体どこまで行ってしまったんだ。
数年振りに自転車を漕ぎ続けて、ボクの脚は悲鳴を上げることもできないぐらいに張っていた。
「ラヴおらへんねん。」
16時頃、買い物から帰ってきた母親が悲壮な声でボクを呼んだ。
仕事から帰って昼寝中だったボクは、目が完全に開いて光を捉える前には玄関を飛び出し、駆け出していた。
ラヴを泳がせると、まず行きたがるのが西か北方向。
逆に東の踏み切りを超えることはない。
ボクはまず中央線を超え、北へ向かった。
それはいつもの散歩コースでもある。
40分は掛けて周るコースを10分足らずで駆け抜けた。
姿はない。
懸念はボクの体力。
ダッシュしていてはボクの体力が尽きてしまう。
一先ず帰宅して、近所に住む妹家族の自転車を借りて捜索に当たる。
普段は紐に繋いでいるが、ラヴが意味もなく鳴き始めた時に、猫の額ほどの庭に放し飼いにしている。
母親が孫を連れて買物へ出掛けている間に、門扉と地面の隙間から逃げ出したのだろう。
ボクは2Fの自室で熟睡中だから気付くはずもない。
ラヴにはまだ居なくなられては困る。
14歳を超えた老犬とはいえ、ラヴがいなくなることは我が家のセキュリティーが78%低下するのだ。
それに今晩中に発見できなければ明日も探さなければならず、予定していた姫路競馬場遠征も中止になるではないか!
「ラヴーッ!!」
母校である箕面一中付近、母親の散歩コースである三角公園周辺、自転車さえも通るのがやっとの近所の狭い生活道路、散歩コースには選択したこともない心臓破りの坂が待ち構える桜ヶ丘も立ち漕ぎで捜索する(下ればよかったんやけど)。
「黒と白の中型の犬を見ませんでしたか?」
擦れ違う度に人々に尋ねるが、暖簾に腕押し。
捜索開始1時間後には仕事から帰った親父もチャリンコで捜索に当たるが、努力は報われなかった。
空が赤とも青とも比喩できない色に変色していた19時頃、母親からの着信。
保健所に問い合わせたところ、保護されているとのこと。
行くはずのない踏切を越えて箕面市役所付近で捜索にあたっていたボクは安心して10歳は老けた。
大阪府のHPで確認したら、電話で問い合わせた職員の言っていたとおり、愛犬の写真が掲載されていた。
間違いはない。
ラヴだ。
尻尾を垂らし、意気消沈している情けないその姿を確認すると、両親も、ボクも、そして急遽我が家へ駆け付けた妊娠中の妹も笑い転げた。
兎に角よかった。
どこのどなたか判らないが、通報してくれてありがとう。
でも慣れない場所での宿泊で緊張して、ちゃんと眠れていないんじゃないだろうか?
餌は貰えているのだろうか?
スマン、明日、母親が迎えにいくまでの我慢だ(ボクは「姫路競馬場行き」だから断念)。
帰るのを拒んだりして。