July 23, 2007

41年越し

ボクの親父は大阪府立桜塚高校1年の野球部時代に、あの江夏豊を見ている。
準々決勝の相手が「江夏の大阪学院」戦。
部員数が少ないため1年生ながらベンチ入りを果たした親父は、守備練習でグラウンドに登場するはずの江夏の姿を見つけることができなかった。
当時から規格外の体格を誇っていた江夏を発見できないわけはない。
でも現実にはグラウンドに姿を現していた。
ふてぶてしい態度でグラウンドを闊歩する監督と認識していたのが、江夏だったのである。

投球練習場のマウンドに立った江夏。
注目はキャッチャー。
キャッチャーミットが、前ではなく下を向いている。
なぜか?
下を向けておかないと、江夏が投げ込むホップするボールを捕球することができないのだ。
江夏の球は、大袈裟ではなく、目で捉えることができなかったそうだ。
因みに当時の江夏は直球しか放れなかった。

その江夏率いる大阪学院に、桜塚は1-0で勝利した。
唯一の得点シーンを親父が振り返る。
1塁走者のリードが大きいと察知した江夏が牽制球を投げたが、1塁手がボ〜ッとしていて後逸。
カバーのライトもボ〜ッとしており、グラウンドを転々する間に1塁走者が長躯ホームイン。
この虎の子の1点を守りきり江夏に投げ勝ったのが、桜塚の好投手・奥田敏輝(としてる)。
親父世代の大阪の野球好きで「桜塚の奥田」を知らない人はいない。
ブルペンで奥田投手のボールを受けていた親父曰く、
「ストレート、カーブ共、切れ味抜群。唯一の欠点だったボールの軽さも、監督の助言によるサイドスロー転向によって改善。この改善がボールの切れをさらに増幅させた。」
打者としての才能も優れており、江夏からフェンス直撃のヒットを放っている。

ワンマンチームだった江夏に投げ勝ったことをフロックだとしても、決勝相手の北陽は甲子園常連で甘くはないと予測されたが、5回まで僅か1失点。
奥田の好投に応えようと攻撃陣が反撃の狼煙を上げ、ノーアウト2,3塁の逆転のチャンスを作り出した。

ところが…。
試合途中で降り出した雨のため順延。
桜塚は再試合で敗れ、甲子園をあと一歩のところで逃した。
「名門野球部でもないただの公立高校が甲子園の土を踏む」
その大きな夢が打ち砕かれた瞬間だった。

もし、あのまま雨が降らなければ…。

因みに江夏も奥田もこの秋のドラフトで阪神にそれぞれ1位、5位で指名され、入団。
再試合で勝利した北陽のエース園田は、現ロッテにドラフト1位で入団した。
奥田さんは1軍で目立った成績を上げることなく引退。
今年、亡くなったらしい。


今日、我が母校・池田高校が北淀高校相手に10-0で5回コールド勝ちを収めた。
相手の自滅なので、点差ほどのチーム力の差はない。

この試合が行われた万博球場の第一試合が因縁の桜塚VS北陽だった。
いくら公立の雄・桜塚とはいえ、甲子園常連の北陽相手とあっては
「桜塚としてはいい試合を」
それぐらいの期待しか持てない。
本心は、
「コールド負けだけは避けてくれ」
である。

万博の駐車場に車を停め、降りると、大歓声が耳に届いてきた。
おそらく北陽側の声援だろう。
さすが甲子園常連だけに応援の人数も多いし、力が入っている。
チケットを購入し、球場に入場。
スコアボードを確認する。

8回裏終了で、桜塚5-4リード!
何ーっ!!!
何度目を擦ってみても桜塚リードだ。
さっきのでっかい声援は、北陽が8回裏に1点を返したときのものだろう。
強豪が劣勢なんだから、そりゃ声援に力が入るのも頷ける。

「桜塚はどうなった?」
親父からメールが入った。
「9回まで1点リードしてるで!」
小刻みに震える手で返信。

9回表。
桜塚の攻撃は、ボクに落ち着かせる猶予を与える間もなく終了した。
北陽のピッチャーが三者連続三振に斬って取ったのだ。
恐ろしく速い球で。
よくこんなピッチャーから5点も取ったな。
もしかしたら桜塚が得点したときは、別のピッチャーが登板していたのか?

しかししかし、ここまで来たら41年前の雪辱を晴らせ!
桜塚のピッチャーは左腕で、投球練習を見た感じでは角度のある直球と右バッターのインコースのストライクからボールになるカーブのコンビネーションで勝負するタイプ。
北陽はこれに手古摺っているのだろう。
さらにノーマークだったの相手への慢心もあったのかもしれない。

桜塚のピッチャーは先頭打者にフォアボールを与えた。
続くバッターにはレフト前ヒット許す。
レフトがボールをお手玉する間に進塁し、ノーアウト2,3塁の大ピンチ。
4番を敬遠気味に歩かせ、5番バッターをショートゴロの本塁封殺で仕留めた。
迎えるは6番バッター。
勝負にいった内角のストレートが胸元を掠めて押し出しデッドボール。
同点。
7番に代打を送ってきた北陽。
1アウト満塁。
1点も許されない場面。

打球はレフトフェンスを超えた。

マウンド上で崩れ落ちたエース。

あの時の桜塚を良く知る人たちも沢山駆けつけていたようで、その内の1人に訊くと、桜塚のエースは序盤からかなり飛ばしていたので、最終回はだいぶヘバッたとのこと。
強豪相手に真っ向勝負を挑み、最後は実力で打たれた。
下を向く必要は全くない。
ナイスピッチングだ。
OBを含む応援団と合流したナインには、盛大な拍手が送られていた。
感動したボクも送った。

一番落ち込んでいたのは、親父だったかもしれない。


ボクたち親子が参加している草野球は準決勝進出。
日曜の試合は相手が弱すぎて全く面白味のない試合に終わった。
相手チームのエースが参加してなかったようで、代わりのピッチャーがフォアボールばっかだし、ライト前にポテンヒットを打って走ってるときに右太腿に肉離れを発症したし。
こんなことなら参加するんじゃなかった。

今日の夕方、行きつけの整骨院で看てもらったら、「暫く安静にしてください」との指令が。
「日曜に準決勝があるんですけど。」とは言えなかった。
「絶対、ダメ!」と制止されることが目に見えていたし。
でもまあ、現実には「ダメ」の二文字は聞いていないわけだし、出場はOKと解釈する。  

Posted by foe1975818 at 23:41Comments(2)TrackBack(1)