ボクがエキストラとして参加した経緯は、妹が村上春樹の熱烈なファンで、「ノルウェイの森」が映画化されることをあざとくHPで知り、そのエキストラ募集に、どういうわけか家族全員を勝手に登録していた。
なんとありがたい御節介を焼いてくれるのだ。
当人は妊娠中の分際で。
「○月○月の撮影に参加できませんか?」というメールがボクのところに送られてきていたが、日程が合わなかったり、年齢などの条件に見合わなかったり、参加可能の返信をしたにもかかわらず先着順に漏れてたりなどで断念してきた。
でも8月9日の撮影がエキストラ参加シーンラスト募集でもあり、どうにか参加したいとの願いを同僚が快く受け入れてくれた。
撮影参加が可能である旨の返信をしたところ、漸く「ではお願いします。」との手形をいただいた。
条件は
「この日は大学生役が200人必要です(男8割女2割)。当時の学生は物凄く老けて見えるので18〜40歳迄の『自称大学生』はどしどしご応募下さい。」
ところが、事は思い通りには運ばない。
向こうの都合で撮影が10日に延び、10日が雨天のために11日に延期された。
宿泊予定だった新婚ホヤホヤの友人Y野や、友人N田へ侘びの連絡を入れ、新幹線のチケットを変更し、その都度、勤務の変更も同僚へお願いした。
同僚が「そんなおもろいチャンスを逃したらアカン!参加するからには映ってないとただじゃおかんで。」と、極めて協力的?だったのが救いであり、モノを言った。
そんな紆余曲折を経て臨む撮影。
「映ってないとただじゃおかんで。」という言葉が、丁度接近中だった台風の渦のようにグルグルと脳裏を駆け巡る。
ボクには期するものがあったである。
10日は友人Nの出勤なので、出勤時間に合わせてボクも出発し、撮影場所であるW大学への所要時間を確かめるために予行演習を行ったのに、撮影当日の11日に電車に乗り間違える失態を演じて、遅刻こそ免れたが、到着がやや遅れた。
集合場所の早稲田大学大隈講堂前に立っていたスタッフに「エキストラ参加の○○です。」と告げると、
「ありがとうございます。え〜っと…、」
ボクの顔をジロジロ見るや、
「…衣装合わせの時に、『先生役でどうですか?』と伝えてください。」
リレー方式でスタッフが迎えにきてはボクを案内し、政経学部の教室に導かれた。
教室の中には既にヘルメットを被り、タオルを顔に巻きつけた学生運動を繰り広げる生徒役に衣装替えを済ませたエキストラが100人近くが着席していた。
署名などを済ませて待っていると、まずはメイク室へ案内された。
髪の毛を七三分けにされるのである。
ボクが入室すると
「あっ、あなたはそのままでいいですよ。何もできませんから。」と半笑いで退室を命ぜられた。
「そっ、そうですよね。」
ボクは顔を引き攣らせて退室した。
そして衣装替えの時を迎え、
「先生役がどうか?って言われたんですけど。」
「ちょっと待ってくださいね。先生役は5人必要で、今4人埋まってるんですよ。ちょっと聞いてきますね。」
「先生役はこの後の人にお願いします。あなたはどちらかというと風貌的に先生役ではないわ。」
「そっ、そうですよね。」
妙ちくりんな色合いのシャツに袖を通し、それ以外は持参してきていた自前の衣装が問題ないと判断され、ゲバ棒、ヘルメット、タオルを顔に巻きつけ、控え室で待機した。
結局、先生役はオードリー・春日のようなベストを着せられる羽目だったので、結果オーライだったかもしれない。
学生運動役は一先ず先送りとされ、急遽通行人役が急募となり、20人ほどがヘルメットとタオルを脱いで撮影に当たったわけである。
その際、「文庫本を持っても構いません。」というアイデアがスタッフから出された。
実はボクは上京中の新幹線内で読んでいた「ノルウェイの森」を持っていたが、そんな地味なジョークはここでは必要ないと判断し、控えた(エキストラ撮影に臨んでいることがジョーク以外のなにものでもないけど)。
撮影内容は前記事どおり。
松山ケンイチは終始大人しく、待機中は逆にヘアメイクの女性の髪型を整えるなどのケンイチジョークで和ませていた。
撮影で疲弊するエキストラ連中とは対照的に、スタッフは疲れた仕草、表情は一切見せず、エキストラ諸君を盛り上げ、次々と仕事を元気良く捌いていた。
中でもMサキさんという女性がとてもキュートで、ボクのハートがキュンとした。
待機中に隣に座った若い男に話し掛けると、彼は20歳の早大生で、来れなくなった友達の代わりに来たと言っていた。
そんな弱冠20歳の若造に「大阪の人ですか?」と見事に的中されてしまった。
「当時にも大阪人の老けた大学生がいてもおかしくないだろう。」という言い訳で場を和ました。(そうか?)
彼とは撮影場所が微妙にずれていたが、撮影終了後に「いつかまたどこかで。」と熱い握手を交わして爽やかに別れた。
「補勤をしてもらった分の仕事はしてきました。カットさえされてなければ確実に映ってます。」
東京ばななを手土産に補勤を快諾してくれた同僚に伝えたところ、喜んでくれた。
これで肩の荷が下りた。
さあ、ボクに残された大仕事は舞台挨拶か?